仮開設since 2003/11/11 last update 2004/8/6 | |||
「フィンランド症候群」の真実
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・・・現在工事中・・・ | |||
フィンランド症候群とは | 誤用を報じた報道 | 論文抄録 | |
論文の詳細 | 最初の誤用 | 「フィンランド症候群」誤用事例 | |
参考文献 | 謝辞 | ||
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フィンランド症候群とは | ||
よくみられるのは次のような使い方である。 「フィンランド保険局が、40歳〜45歳の上級管理職600人を選びだし、定期検診、栄養チェック、運動、タバコ、アルコール、砂糖、塩分摂取の抑制にしたがうように説明し、これを15年間実施し経過を観察。同時に同じ職種の600人には、目的を話さず、ただ定期的に健康調査票に記入させるようにした。調査を開始してから15年後には意外な結果となった。健康管理されていないグループの方が、心臓血管系の病気、高血圧、がん、各種の死亡、自殺者の数が少なかった。生活に干渉されることが一番のストレスになる人間は自由に生活することが感染に対する抵抗力を持ち、健康な生活をしているという依存心がかえって、不健康をつくることになるのだ。」「無理やり健康増進させられた人の寿命が短かった。」「禁煙したらストレスでかえって早く死ぬかも。」 しかし、このような解釈はでたらめだった。 誤った解釈を元に「フィンランド症候群」などと勝手に呼ばれていることについて、フィンランドの地元ではびっくりしておられるようだ。下記に示すもとの論文を読むと、禁煙が心血管死やがん死を予防できるとは解釈できても、禁煙が体に悪いという解釈はできない。 すでに「フィンランド症候群」は医師や文筆家などによって日本各地の講演や書籍の中で使われ、各所のホームページにも散見されるが、早く正しい認識が広まり、事態を収集して欲しいがために、ここに証拠とともに記録しておく。 誤用した人は可及的に訂正して頂きたい。 |
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誤用を報じた朝日新聞の記事 | ||
「窓」―フィンランド症候群 (朝日新聞 2002/11/ 9) フィンランド症候群という言葉をご存じだろうか。 よく耳にするのは、こんな説明だ。フィンランドの保健局が約600人の管理職に定期的な健康診断をし、たばこや飲酒を控えるなどの摂生を求めた。別な600人には何もせず様子を見た。15年後に比べたら、何もしない集団の方が死亡者が少なかった。 健康管理は健康に悪いという逆説的な結果が人々の関心を引き、症候群と呼び習わされるようになったらしい。禁煙しない理由として引き合いに出されることも多い。 だが、震源地となったヘルシンキ大学の研究者らの論文にあたると、様相が違う。 血圧やコレステロール値が高かった男性約1200人のうち、半分に薬を5年間飲んでもらい、その後も年1回の検査を勧めた。残りの半分には薬を使わなかった。 治療を施した集団は血圧やコレステロール値は下がったが、15年間の死亡者総数で見ると、なぜか非治療群より多かったという内容なのだ。 予想を覆す結果だったことは間違いないが、焦点は薬物治療の是非だ。ちなみに喫煙量では両集団に差はない。 東京慈恵医大健康医学センターの和田高士センター長は「私たちの研究でも摂生し過ぎると血圧があがるという結果が出ましたが、大切なのは程良く気をつけることです。摂生しない方が健康に良いとはいえません」という。 フィンランド症候群を盾に喫煙や酒量の多さを正当化するのは、やめた方が良さそうだ。〈高橋真理子〉 |
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論文抄録 | |||
ポイント 1 介入当初の5年間では、介入群の心疾患死が減少している 2 介入群・対照群ともに喫煙率は減少しており、また両群で喫煙率に差はない。 3 介入は最初の5年間のみで、次の5年間のうちに介入群と対照群の危険因子のプロファイルや受けている治療には差がなくなっている 4 15年間(介入は5年+観察10年)では介入群の総死亡および心血管疾患死は、対照群より有意に多い 5 15年間の多重ロジスティック回帰分析では、受けた介入が生命予後に影響したという結果は得られておらず、何らかのバイアスの混入が示唆される 6 バイアスの原因として、耐糖能異常によるものが示唆される 7 参加者全員での解析で、喫煙、高血圧、高コレステロールは何れも生命予後に悪い影響を与えていたことが確認された。特にがん死は喫煙のみに関係があった。 論文抄録1. Strandberg TE. Salomaa VV. Naukkarinen VA. Vanhanen HT. Sarna SJ.Miettinen TA. 中年男性における5年間の心血管疾患に対する多因子一次予防介入後の長期生命予後 JAMA. 266(9):1225-9, 1991 目的:心血管疾患に対する多因子一次予防の長期効果を検討する。 デザイン:1974年から1980年にかけて、5年間のランダム化比較試験が実施された。対象の状況、および彼らの危険因子の状況は1985年に再度調査を行った。試験後生死確認は1989年12月まで続けられた。 施設:フィンランドのヘルシンキ市産業保健研究所、およびヘルシンキ大学第2内科。 参加者:1919年から1934年の間に生まれた総勢3490名の会社役員が、1960年代後半に検診に参加。1974年には、臨床的には健康だが心血管疾患の危険因子を有する1222名の男性が一次予防試験に参加した;612名が介入群、610名が対照群に無作為に振り分けられた。 介入:5年間の試験期間中、介入群の参加者は4ヶ月毎に試験参加医師のもとを受診した。彼らは濃密な食事・衛生指導を受け、しばしば脂質低下療法(おもにクロフィブラートかつ/ないしプロブコール)と降圧剤(主にβブロッカーかつ/ないし利尿薬)で加療された。対照群は試験参加医師による治療は受けなかった。 主要転帰:全死亡、心疾患死、他の原因による死亡。 結果:冠動脈疾患リスクは試験終了時には介入群で対照群と比較して46%減少した。試験後5年間で、両群間の危険因子や投薬の差異はほとんど消失した。1974年から1989年の間の介入群の総死亡数は67、対照群は46であった(相対危険 1.45;95%信頼区間1.01〜2.08; P = .048);心疾患死は34および14(相対危険 2.42;95%信頼区間1.31〜4.46;P = .001);その他の心血管死は2および4(有意差なし);がん死は13と21(相対危険 0.62;95%信頼区間0.31〜1.22; P = .15);および外因死(事故・自殺・他殺)は13と1(相対危険 13.0;95%信頼区間1.70〜98.7; P = .002)であった。多重ロジスティック回帰分析では、介入群に行われた治療では15年間の超過心疾患死を説明することはできなかった。 結論:上記の予想外の結果は多因子予防介入の有効性を否定するものではないと考えられるが、心疾患の一次予防で用いられている治療法の選択および相互作用についての検討の必要性を支持している。 論文抄録2. Strandberg TE, Salomaa VV, Vanhanen HT, Naukkarinen VA, Sarna SJ,Miettinen TA. 心疾患の多因子予防試験の参加者および非参加者の生命予後:ヘルシンキ・ビジネスマン試験の28年間の追跡 Br Heart J 1995 Oct;74(4):449-54 目的:心疾患の多因子予防試験の参加者および非参加者における試験前危険因子と長期生命予後 (1964-1992) を検討する。 デザイン:当初健康であった3313名のビジネスマンを対象とした前向き試験。1919年から1934年の間に生まれた3490名の男性会社役員が、1960年代(1964年以降)中に任意に検診をヘルシンキ産業保健研究所で受けた。この時期に3313名の男性の心血管疾患危険因子の状況が把握された。1970年代の初めに、彼らは多因子一次予防試験への参加を呼びかけられ、6つの群が作られた:(I) 高リスク介入群の健常参加者 (n= 612)、(II) そのランダム化対照群 (n = 610)、 (III) 非参加者低リスク群 (n = 593)、 (IV) 心血管疾患の所見がある除外群 (n = 563)、(V) 拒否群 (n = 867)、 (VI) 死亡 (n = 68)。(I)および(II)群が、1974年に始まった5年間の予防試験に参加した。他の群は個人的な接触は行わずに死亡登録のみで追跡された。 測定項目:1960年代の心血管危険因子。死亡届による1992年12月31日までの追跡。 主な結果:試験開始時の危険因子は低リスク群で最低、除外群で最高、その他の群はその中間で類似していた。18年間 (1974-1992)の死亡率(対1000人)は低リスク、対照、介入、拒否、および除外群でそれぞれ79.3、106.6、155.2、179.9、および259.3であった(P < 0.001)。3313名全員では、28年間(1964-1992)の総死亡(n = 577)および冠動脈疾患死(n = 199)は、喫煙、血圧、およびコレステロールと有意に関係していた;がん死(n = 163)は喫煙とのみ関係;外因死(事故・自殺・他殺)(n = 83)はどの危険因子とも関係していなかった。負荷1時間後の血糖値が、介入群のみにおいて総死亡と有意に関係していた。介入群と対照群を同時に同じモデルに含めると、属する群の総死亡への影響は血糖の1時間値に依存する傾向が見られた(P= 0.06) 結論:古典的危険因子(喫煙、血圧、コレステロール)は、事前に健康教育を受けているこの社会的地位の高い一群の28年生存率に有意に関係していた。逆に、低リスクの一群は総死亡、冠動脈疾患死、およびがん死は少なかった。1時間血糖値の結果は、耐糖能に関係する要素が介入群が対照群に比較して死亡率が高かった原因の一部となっていることを示唆している。 |
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論文の詳細 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
解説:京都府立医科大学大学院医学研究科地域保健医療疫学 小笹晃太郎医師 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
フィンランド症候群というと、あたかもフィンランド全体のことかと思いそうですが、これは、1970年代にヘルシンキのきわめて社会的に裕福な階層の人たちを対象とした、小規模な無作為割り付け多危険因子介入試験の結果をとらえたものです。北カレリアプロジェクトの結果とどちらを信用するかと問われれば、もちろん北カレリアプロジェクトと答えます。 このヘルシンキでのスタディがなぜこんな結果になったかという理由は、薬物治療の副作用説が有力ですが、長期的な観察結果(Br Heart J 1995)をみると、いろんな可能性が考えられ、どの説でも全てを説明できそうにないようにも思います。もちろん、生活習慣指導が有害であったとは思えません。(下記に概要を示します) 「フィンランド症候群」はジャーナリズムの造語です。この言葉を使うこと自体が、特殊な一研究の結果に過ぎないものを、普遍的な現象であるかのような印象を与えてしまいますし、このようなネガティブな事象に当事者の名前をつけることは失礼であると思います。
1) Miettinen TA, et al. JAMA 1985; 254: 2097-2102. 2) Strandberg TM, et al. JAMA 1991; 266: 1225-1229. 3) Strandberg TM, et al. Br Heart J 1995; 74: 449-454. この研究の対象者の母集団は、1960年代にヘルシンキの産業保健研究所の健診を受けた1919〜34年生まれの実業家3490人のうち、循環器疾患の危険因子の評価が可能であった3313人です。これを研究開始時(1974年)に6群(実質5群)に分けました。 介入群(1)[612人]と対照群(2)[610人](循環器疾患の高危険群であるが健康である人を、無作為に割り付けた) 循環器疾患の低危険群(3)[593人](低リスクなので介入の必要性がないと判断された) 除外群(4)[563人](すでに循環器疾患の症状があるなどの理由による除外。これは介入群・対照群より当然ハイリスク) 協力拒否・無回答群(5)[867人](もともとは介入群・対照群と同じ基準で選ばれたのですが、研究へ参加しなかった人です。若干、介入群・対照群よりリスクが高い傾向にあります) 研究開始時までに死亡した人(6)[68人] 介入群に対しては、5年間(1974〜79)の介入期間中4ヶ月ごとの受診時に、食事、運動、飲酒、喫煙に関して保健指導を行い、血圧と血清脂質値が目標値に達さなかった人に対して、降圧剤および脂質降下剤を投与しました。(1985年論文に記載されています) その結果、介入によって、肥満度、血圧、総コレステロール値、中性脂肪値が有意に改善したにもかかわらず、介入群で、心疾患死、外因死、総死亡が有意に多かったというものです。 生活習慣指導がどのような影響を与えたかについては、保健指導をしても介入群・対照群間の喫煙量や飲酒量にいずれの時点でも有意差はなく、両群ともに、どんどん減っています。
また、介入終了時点で、介入群の32%が降圧剤、37%が脂質降下剤の投与を受けており、対照群ではそれぞれ15%と0%でした。 上記5群の1992年までの累積死亡率(対1000人)は下記のように報告されています。
死亡率の悪い方から、 除外群:疾患のある人達だから予後が悪いのは当然 拒否群:リスクを下げようとする研究に不参加なので、生活習慣なども変えようとしなかっただろうから、予後が悪くても不思議はない? 介入群:? 対照群:? 低危険群:もともとリスクの少ない人達だから予後のよいのは当然 という順になっており、なぜ、介入群と対照群が逆転しているかが疑問の焦点です。92年までの18年間の生存曲線は、上記の順でおおむねただ差が開くばかり(扇形)の傾向を示しています。 当初、脂質降下剤の副作用かとして問題になった「介入群で外因死が多い」という件は、対照群での外因死が特異的に少ない(理由不明)ということで説明されています。 また、介入終了時(1979年)に介入群でHDLコレステロールが低値であったことも、脂質降下剤の副作用であり、それが虚血性心疾患の増加につながったとの意見もありますが、1985年での追跡時には、HDLコレステロールはむしろ介入群で高値(ただし有意ではない)でした。 低危険群での死亡率が最も低いこと、および、3313人全体の解析で年齢、血圧、コレステロール値、喫煙のいずれもが有意に総死亡リスクを上げ、年齢、血圧、コレステロール値が有意に心疾患死亡リスクを上げていることから、これらの古典的危険要因の意義はゆるがないとしています。 しかし、各群別にこれらの危険要因を評価した場合には(下表)なかなか複雑です。介入群で年齢が有意になっていないことをとらえて、介入したことが死亡に何らかの影響を与えていると考えています。 各危険要因(1974年時)の総死亡に対する相対危険度
相対危険度はそれぞれ、年齢は5歳増加、肥満度はBMIが5増加、収縮期血圧は10mmHg上昇、コレステロール値は1mM(38.7mg/dl)上昇、喫煙はyes/no、高血糖は1g/kgブドウ糖負荷後1時間値1mM(18mg/dl)上昇に対応しています。 介入群での死亡が多いことについて、高血糖者の死亡リスクが介入群で特に高いこと(相対危険度=16.0、他群では0.30〜3.27)をとらえて、介入群における何らかの状況が高血糖者の予後を特に悪くさせたのではないかと考察しています。しかし、これだけで18年間にわたる差を説明できるとも思えません。 こういう状況であり、これをどう解釈するかですが、簡単に言い切れるものはないように思います。 |
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「フィンランド症候群」を最初に誤用したのは・・・ | ||||
その後、同年12月に「新潮45」で水野肇氏が取り上げ、 その後、村上龍氏が本で取り上げるなどして「フィンランド症候群」の話は急速に広まっていきました。新聞では1994年7月23日の朝日新聞「天声人語」が取り上げています。 同年の医学誌、循環科学Vol.14No.1(1994年)のp.66-69には上記「天声人語」を読んで疑問を抱いた淑徳大学教授の籏野脩一氏が「リスクファクターを治療するのは危険か?-ヘルシンキ研究のミステリー」で、原著論文の詳しい解析を試みられて、国内ではおそらく初めて正しい解釈を示しておられます。 |
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「フィンランド症候群」誤用の事例 | |||||
誤った解釈のまま、「フィンランド症候群」について紹介・引用されている雑誌・書籍・記事などを記載しておきます。他にもまだあると思います。さらにこれらが孫引き引用されて、誤った解釈のまま広まってしまっているのです。 |
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ロラン・ジャカール、ミシェル・テヴォス著 菊地昌実翻訳 「安らかな死のための宣言」 新評論 1993/07 \1,800 p88-90「フィンランド症候群」 原作は以下である。 「Manifeste pour une mort douce」 原著: Roland JACCARD, Michel THEVOZ 初版発行所: Editions Grasse 発行年: 1992 水野肇 「フィンランド症候群」 新潮45 1993/12 p.43-45 村上龍・山岸隆著「「超能力」から「能力」へ―宇宙的な未知の力を、身近なソフトウェアに」 講談社 1995/05 \1,456 米山公啓著「健康という病」 集英社新書 2000/06 \660 村上龍対談集 「存在の耐えがたきサルサ」 文藝春秋 2001/06 \838 奥村康氏講演記録 「気の持ち方で長生き」 朝日新聞朝刊 2002/10/14 第7面 上記の他、ホームページを検索するといくらもでてきます。 早く、正しい認識が広がって欲しいと願ってやみません。 |
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参考文献 (古い順) | |||||
Miettinen,T.A. et al. :Multifactorial primary prevention of cardiovascular
diseases in middle-aged men.JAMA,254:2097-2102,1985. Strandberg,T.M. et al. :Long-term mortality after 5-year multifactorial primary prevention of cardiovascular diseases in middle-aged men.JAMA,266:1225-1229,1991. 籏野脩一:リスクファクターを治療するのは危険か?-ヘルシンキ研究のミステリー.循環科学,14(1):66-69,1994. Strandberg,T.M. et al. :Br. Heart J.,74:449-454,1995. 大島 明:メディカル朝日,12:27-31,1995. 小笹晃太郎:“フィンランド症候群”の真偽.医学のあゆみ,210(2):163-164,2004. |
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