[緊急発信]キーパーソンに聞く 未成年者の喫煙 高橋裕子医師 /和歌山 (2001/12/15 ヤフーニュース/毎日新聞)

 県教委は来春から、県内の公立学校の敷地内を全面禁煙にすることを決めた。深刻な未成年者の喫煙問題に対処するための措置で、教職員の喫煙姿を見せないことで、児童・生徒の喫煙を少しでも減らせないかとの狙いだ。県教委の方針に対し、「分煙すれば吸ってもよい」「教職員と子供は別。法律的に認められている」などと反対する声も多い中で、インターネットを使った「禁煙マラソン」を主宰し、勤務する奈良県大和高田市立病院では禁煙外来を担当する内科医長の高橋裕子医師は、県教委の方針を高く評価する。高橋医師に、未成年者の喫煙問題や禁煙外来の状況などを聞いた。 【小山内恵美子】 

 ――禁煙指導に携わるようになったきっかけは? 

 もともとは消化器科が専門で、約10年前から糖尿病も専門としています。糖尿病の合併症を防ぐにも禁煙が重要ですが、たばこをやめた患者さんの話を他の患者さんに話してみたら、多くの人が禁煙できたんです。医学的に正確な知識だけでなく、どうやって禁煙すればよいのかを伝えるべきだと強く感じました。そのための窓口となったのが94年に開設した禁煙外来です。 

 ――たばこ問題の中でも未成年の喫煙が増えていることが大きな問題と聞きますが。 

 未成年者と妊産婦の喫煙が増えており、深刻な問題です。私の禁煙外来にも1年で約40人の未成年者の新患があります。たばこの害として、40、50代になって肺がんなどの疾患が起こるとされていますが、未成年で喫煙を始めるとその危険性は数倍にも増加します。 
 また大人が吸うことで、子供へのたばこの「刷り込み」があることを大人はもっと認識すべきです。たばこの有害性は、「灰色」ではなく「クロ」なのですから、子供がそれを選択しないよう大人が伝える必要があります。 

 ――禁煙外来にはどんな方が通っていますか。 

 「高校受験前で頭がすっきりしない」「部活動でもっと成果をあげたい」と訴える中学生や、「子供にやめさせたいから、自分も禁煙したい」と言う大人もいます。禁煙に成功すると、「体が軽くなる」「お肌がきれいになる」などの効果を実感する人が多いようです。 

 ――今回の和歌山県教委の方針に対し、「大人と子供は別で、先生は成人だから吸っても良い」と考える教職員も多いようですが、禁煙指導をする者がたばこを吸うことについて、どう考えますか。 

 禁煙を指導する私たち医者は、職務についている間はたばこを使用しているのを見せず、においもさせないというのが常識になりつつあります。喫煙は、趣味や嗜好(しこう)ではなく、ニコチンという薬物が作り出す依存状態です。依存状態にある人には、そのことが見えません。また、喫煙は、周囲の人に対しても健康被害を及ぼしますが、喫煙者の皆さんは、それを過小評価する傾向にあります。自分がやめられないから児童・生徒に影響があってもやめない、というのは教育のプロではないでしょう。正しい指導のためには、禁煙が必要でしょう。 

 ――また、県教委の方針が「強権的だ」との批判もあります。 

 児童・生徒の喫煙が深刻な状況にあることをもっと分かっていただきたいですね。今のままでは、未成年者の健康は守れません。今度は、他の方法を考えるべきです。また、受動喫煙も問題です。周囲の同僚だけでなく、発育期にある児童・生徒に教師が受動喫煙を及ぼすことはあってはならないことですが、分煙といった敷地内禁煙以外の方法では、受動喫煙は防げません。学校現場はこの点でも病院や一般企業より認識が甘い所が多いようです。 

 ――和歌山の先生方にメッセージを。 

 2年前からニコチンパッチが使えるようになり、禁煙しやすい時代になりました。インターネットなどで禁煙のサポートも受けられます。喫煙者は禁煙することの欠点を考えがち。しかし禁煙して身の回りの「いいこと」を探せた人たちは、皆本当に明るく、自信に満ちあふれています。 

◇禁煙外来とは 
 禁煙外来では、ニコチンパッチやニコチンガムを使った「ニコチン置換療法」と、ニコチンの渇望を乗り切るための行動療法がある。ニコチン依存を治療するニコチンパッチの出現で禁煙のつらさは大幅に減少した。ニコチンパッチを使った禁煙の指導は、県内では37カ所の病院、診療所で実施されている。 
 ニコチンパッチは、ヘビースモーカーほど効果が出やすく、禁煙の成功率も高い。しかしながら、未成年者では、これを使って禁煙しても友人からの誘いなどで、結果的に禁煙が難しいケースが多いのが実情という。 
 高橋医師は「まわりの大人が吸っていない子供の方が成功率が高い。禁煙をしっかりサポートできる体制が必要」と話す。高橋医師が行っているインターネット禁煙マラソン(http://www.kinen‐marathon.org/)では、禁煙に成功した人からのエールも受けられる。 

◇奈良県大和高田市立病院内科医長、高橋裕子医師 
 1954年奈良市生まれ。京都大学医学部卒業、同大学院博士課程修了。京都大学付属病院などを経て現職。94年から大和高田市立病院で「禁煙外来」を開設し、97年からは「禁煙マラソン」を主宰。同大予防医療クリニックの担当医を兼務。 (毎日新聞)