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ネオシーダーのニコチン含有状況から見た医薬品としての妥当性の検討

キーワード
ネオシーダー、一般用医薬品、ニコチン、喫煙

著者名
田中英夫 大阪府立成人病センター 調査部
野上浩志 大阪府立公衆衛生研究所 公害衛生室
中川秀和 公立周桑病院 外科
蓮尾聖子 大阪府立成人病センター 調査部

連絡先
田中 英夫(たなか ひでお)
大阪府立成人病センター調査部
〒537-8511 大阪市東成区中道1-3-3
電話番号:06-6972-1181(内線2306)、FAX番号:06-6972-7749
E-メール:tanaka-hi@mc.pref.osaka.jp



抄録

目的:全国の薬局、薬店で喫煙者の鎮咳、去痰剤として販売されている薬用吸煙剤ネオシーダーの医薬品としての妥当性を、製品のニコチン含有量と、これを試行した者および連用者の尿中コチニン量から評価検討した。
方法1:ネオシーダーおよび、コントロールとしてマイルドセブンエクストラライト、マイルドセブンスーパーライト、セブンスターの葉0.25gを蒸留水10mlで5分間振とうし、遠心分離後に抽出液を発色反応させ、高速液体クロマトグラフィーで分析した。
方法2:喫煙中であった32歳医師を被験者とし自記式問診とともに、禁煙時、ネオシーダー使用時、禁煙継続かつネオシーダー不使用時の3点で尿中コチニン量を測定した。
方法3:外来患者の中でタバコの代替物としてネオシーダーを継続使用していた2名の連用者を見出し、自記式問診と採尿を実施し、尿中コチニン量を測定した。
成績1:製品3cm(実際の1本当たり消費量)当たりの平均ニコチン含有量は、ネオシーダー;0.79mg(n=6)、マイルドセブンエクストラライト;5.04mg(n=2)、マイルドセブンスーパーライト;4.91mg(n=2)、セブンスター;5.55mg(n=2)。
成績2:被験者の喫煙中のFagerstrom Test for Nicotine Dependenceは3点。禁煙の開始から最終回の採尿までの期間の受動喫煙はなし。尿中コチニン量は、禁煙開始7日目10.0ng/ml。ネオシーダーを3日間で17本使用後47.2ng/ml、禁煙継続かつネオシーダー不使用3日目8.4ng/ml。
成績3:53歳男性:喫煙当時のFTNDは6点。調査期間中の受動喫煙はなし。ネオシーダーを1日平均40本連用中の尿中コチニン量は937ng/ml。75歳女性:喫煙当時のFTNDは7点。ネオシーダーを1日27本連用中の尿中コチニン量は2724ng/ml。ネオシーダー中止96時間後では27.7ng/ml。
結論:ネオシーダーは非麻薬性で習慣性がみられないと説明されているものの、ニコチンを含有していること、使用により本剤に含有するニコチンが体内に移行することがわかった。また、本剤の使用によってニコチンへの依存性が生じ、長期連用を引き起こしていたと見られる2例を報告した。
キーワード:ネオシーダー、一般用医薬品、ニコチン、喫煙



T.緒言
薬用吸煙剤ネオシーダー(製造:アンターク本舗、千葉県)は、昭和35年に国の承認を受けて喫煙者の鎮咳、去痰剤として全国の薬局、薬店で販売されている一般用医薬品である。著者らは入院患者の禁煙指導の効果判定の目的で、患者の尿中ニコチンの半定量試験を行っているが、禁煙している者で本剤のみを使用している者の尿中にニコチンが検出されたことから、本剤にニコチンが含まれているとの疑いを持った。その後、本剤を鎮咳、去痰の目的を超えて長期に連用している複数の患者を見出し、その状況を尋ねたところ、本剤に含まれるニコチンが、使用者のニコチン依存を形成し得るのではないかと推察した。一般用医薬品としての本剤の妥当性、安全性を検討する目的で、製品中のニコチン含有量と、本剤の試行ボランティアおよび連用者の尿中コチニン濃度を定量した。

U.方法
方法1:製品中のニコチン含有量測定
大阪市内および東京都内の薬店で販売されているネオシーダーを計3箱購入し、その中から2本ずつ取り出しサンプルとした。サンプルから本剤の葉を各々0.25gずつ計量し、これを蒸留水10mlで5分間振とうし、3000回転で10分間遠心した。抽出液を0.5ml取り出し、これを蒸留水で希釈し発色反応させた。この発色液を高速液体クロマトグラフィー(日立製L-6200)を用い、検出波長を532nmに設定して定量した1)。実際に本剤を吸煙使用する場合は、先端から約3cm程度燃焼させると考えられることから、製品3cmあたりの葉の重量にニコチン量を換算し、これを本剤を1本使用する時の含有ニコチン量とした。コントロールとして、マイルドセブンエクストラライト(ニコチン量外箱表示:0.3mg)、マイルドセブンスーパーライト(同:0.5mg)、セブンスター(同:1.3mg)各2本ずつの含有ニコチン量を、ネオシーダーと同じ条件下に測定、表記した。
方法2:ボランティアによる試行実験
ネオシーダーをこれまで使用したことのない喫煙者に口頭でインフォームドコンセントを得てボランティアになってもらい、本剤の試行実験を行った。被験者は32歳の愛媛県在住の男性医師。愛媛県の薬店で購入された本剤1箱と、採尿のやり方などを記した試行実験の説明書、喫煙時のニコチン依存度(Fagerstrom Test for Nicotine Dependence: FTND)2)や本剤吸煙時の副流煙曝露の有無等を記録する自記式問診票、本剤の使用状況と採尿時刻を記録するための手帳、および採尿容器を手渡した。禁煙時、本剤使用時、禁煙継続かつ本剤不使用時の3点で採尿を2本ずつ依頼し、検体は採尿の都度凍結保存し、まとめて冷凍便で回収した。尿中のニコチンおよびコチニン濃度を方法1のネオシーダー抽出液と同様の方法で定量した1)。自記式問診票と手帳の記載から、被験者の禁煙状況、ネオシーダー使用状況および採尿の時刻を確認した。
方法3:ネオシーダー連用者の本剤使用状況と尿中ニコチン、コチニン濃度の測定
著者らが日常業務等を通じて知り得た本剤の連用者2名(いずれも府立成人病センター外来患者)から口頭でインフォームドコンセントを得、自記式問診票、本剤使用の記録用手帳および採尿容器を送付した。方法2に示した方法で検体と喫煙当時の状況、本剤の使用状況および採尿日に関する情報を得、検体は方法1と同じ測定法でニコチンおよびコチニン濃度を定量した。

V.結果
(1)製品中のニコチン含有量.タバコとの比較
製品0.25gから抽出したニコチンを製品1.0g当たりに換算すると、ネオシーダー1.4〜1.9mg/g(表1-1)、マイルドセブンエクストラライト16.1〜15.4 mg/g、マイルドセブンスーパーライト14.5〜14.8 mg/g、セブンスター16.1〜17.4 mg/gとなった(表1-2)。これを1本当たり3cm吸煙すると仮定して、製品3cm当たりの重量で換算すると、ネオシーダー0.79 mg(表1-1)、マイルドセブンエクストラライト、マイルドセブンスーパーライト、セブンスターは、各々5.04 mg、4.91 mg、5.55 mgとなった(表1-2)。ネオシーダーはコントロールに用いた3種のタバコよりも、1本当たりの葉の重量が重いため、実際に吸煙する量(3cm)で含有ニコチン量を換算し、タバコのそれと比較すると、葉の重量当たりで比較した場合に比べてニコチン含有比が高くなった(表1-1、1-2)。

1-1 ネオシーダーのニコチン含有量

購入場所

大阪市

大阪市

東京都

製造番号

2001.5.18A

2002.1.18A

2002.1.28A

サンプルA

サンプルB

サンプルC

サンプルD

サンプルE

サンプルF

ニコチンmg/g

1.80

1.91

1.66

1.75

1.38

1.45

ニコチンmg/

1.72

1.88

1.51

1.59

1.22

1.32

ニコチンmg/3cm

0.88

0.96

0.77

0.81

0.62

0.67

ニコチンmg/3cm
平均値(S.D

0.79 (0.12)



1-2 タバコ中のニコチン含有量

マイルドセブン
エクストラライト

マイルドセブン
スーパーライト

セブンスター

(ニコチン量外箱表示)

0.3mg

0.5mg

1.3mg

検体

サンプルA

サンプルB

サンプルA

サンプルB

サンプルA

サンプルB

ニコチンmg/g

16.07

15.38

14.77

14.48

17.36

16.13

ニコチンmg/

10.77

9.06

9.98

9.32

11.18

10.64

ニコチンmg/3cm

5.47

4.61

5.08

4.74

5.69

5.41

ニコチンmg/3cmの平均

5.04

4.91

5.55

*平成元年大蔵省告示第174号による表示



(2)ボランティアによる試行実験
32歳男性、医師。20歳から1日平均12〜13本喫煙中であった。喫煙中のニコチン依存度(FTND)は3点。現病歴、既往歴に特記事項なし。調査期間中の受動喫煙はなし。尿中コチニン量は、禁煙開始7日目10.0ng/ml。ネオシーダーを3日間で17本使用後47.2ng/ml、禁煙継続かつネオシーダー不使用3日目8.4ng/mlとなった(表2)。


表2 尿中喫煙関連物質測定結果、ボランティア(32歳 男性 医師)による試行実験
(2検体ずつ測定)


採尿日

採尿時状況

ニコチンng/ml

コチニンng/ml

1回目

2001.4.17

禁煙7日目

検出されず,検出されず

11.2 8.8

2回目

2001.4.19

採尿前48時間以内に
ネオシーダーを17本使用

77.4,  74.6

47.546.9

3回目

2001.4.22

ネオシーダー中止73時間後

29.2,  25.0

 9.2 7.6




(3)ネオシーダー連用者の成績
53歳男性、運転手。喉頭部良性腫瘍にて府立成人病センターを受診していた。喫煙当時のニコチン依存度(FTND)は6点。禁煙する目的で、タバコの代替物としてネオシーダーを約2年間連用していた。採尿前の1週間の1日平均ネオシーダー使用本数は40本であった。尿中コチニン量は937ng/ml(表3)。採尿前1週間の能動喫煙、受動喫煙はなかった。
75歳女性、無職。糖尿病にて経口糖尿病薬を服用中であった。喫煙当時のニコチン依存度(FTND)は7点。鎮咳目的で薬局からネオシーダーを勧められ、使用しているうちに、タバコからネオシーダーに置換し、連用していた。採尿までの連用期間は約3ヶ月。1回目の採尿日の6日前と7日前(2001年6月24日と同年6月25日)は、ネオシーダーが手元になくなったため、セブンスターを25本づつ吸った。5日前からは再びネオシーダーのみの使用となった。1回目の2つのサンプルの尿中平均コチニン量は2724ng/ml。1回目の採尿日から2回目の採尿日までの間に能動喫煙はなし。受動喫煙の有無は明らかではない。2回目の2つのサンプルの尿中平均コチニン量は27.7ng/ml。ネオシーダー中止3日目(2001.7.4)にニコチン離脱症状と思われる強いイライラ感が出現した(表3)。

3 ネオシーダー連用者の尿中喫煙関連物質測定結果、(2検体ずつ測定)

属性

採尿日

採尿時状況

ニコチンng/ml

コチニンng/ml

53
男性
運転手

2001.5.16

当センター外来にて午前11時に採尿、その日朝起きてから採尿までの間にネオシーダーを10本吸っていた。

10761176

904970

75
女性
無職

1回目

2001.7.1

採尿日と採尿前5日間の計6日間のネオシーダーの1日平均使用本数は27

  728 747

28092639

2回目

2001.7.5

ネオシーダー中止96時間後

   97 105

 26.1 29.3





W.考察
今回の我々の成績は、喫煙者の鎮咳・去痰剤として販売されている一般用医薬品ネオシーダーに、1本あたりの使用量換算でタバコの6〜7分の1程度のニコチンが含まれていること、およびボランティアによる本剤の試行実験から、本剤のニコチンは使用者の体内に移行することが明らかとなった。さらに、本剤を長期に連用していた2名を見出した。そのうち1名(53歳男)は、禁煙目的で本剤を開始したが、使用しているうちに本剤に依存が生じたと考えられた者であり、残りの1名(75歳女)は、鎮咳・去痰目的でネオシーダーを使用しているうちに、タバコから本剤に依存が代替されたと考えられた者である。
ネオシーダーは外観と使用方法が通常の紙巻きタバコと全く同じであることから、本剤の連用を形成する要因として、タバコの使用と同じ動作を繰り返すことによる心理的習慣性の面が否定できない。しかしながら、2人の長期連用者の尿中コチニン濃度は904ng/ml〜2809ng/mlと、いずれも通常の紙巻きタバコを連用している軽度喫煙者の尿中コチニン濃度3,4)に匹敵する濃度が検出されたこと、尿の採取前の記録から、能動喫煙の可能性は2人とも考えられないこと、女性の連用者はネオシーダー使用中止後に尿中ニコチン、コチニン濃度とも明らかに減少し、ネオシーダー終了から5日間に渡り、ニコチン離脱様症状と考えられるイライラ感が生じたとの証言を得たことを考え合わせると、本剤への依存形成は本剤に含有するニコチンが、本剤の吸煙により血中に移行したことが主たる原因であることが強く示唆された。他方、本剤の製造元であるアンターク本舗が発行する商品説明書(2001年11月24日時点)では、本剤の特徴として「非麻薬性で習慣性、禁断現象がみられないので長期連用ができる」と記載されている。今後、ネオシーダーの主流煙中のニコチン量を定量し、これをタバコでのそれと比較することにより、本剤の吸煙と本剤への依存との関係がさらに明確な形で示されるものと思われる。
医師の処方箋を必要としない一般用医薬品は医療用医薬品と異なり、消費者(患者)の服薬状況や、副作用に関する情報について、医療関係者は把握しにくい。今回の出来事は、外来患者に対する禁煙指導の効果判定のための尿検査を契機に、偶発的に認知された。我々が見出した2名のネオシーダー連用者はいずれも特定の薬局・薬店でこの医薬品を購入していたと証言していた。本剤を長期に燃焼吸煙した場合、タールや一酸化炭素などのニコチン以外の物質による身体への影響も、現時点では否定できない。販売する側の薬剤師・店員が服薬状況の確認と指導をどのように行っていたのか、調査する必要があると思われる(なお、2001年11月30日に、日本薬剤師会ホームページの医薬及び薬事情報http://www.nichiyaku.or.jp/news/NEWS_F.HTMに、本剤を禁煙補助目的で使わないようにとの紹介がなされた)。
ニコチンは毒物及び劇物取締法で毒物とされている。ネオシーダーがニコチンを主成分としてその薬効を利用した医薬品なら、同法2条の除外条件によって毒物ではないとされるが、本剤に含有するニコチンは、薬効以外の成分として検出され、しかもこれによる依存症例が複数認められたことから、我々は本剤が一般用医薬品として製造、販売が継続されていることに重大な疑問を持つ。なお、平成12年8月17日付で我々は大阪府健康福祉部薬務課に対し、ネオシーダー使用患者の尿から半定量法でニコチンが検出されたことを報告した。また、平成13年7月16日付で、大阪府健康福祉部薬務課に対し、本稿で示した製品中のニコチン含有量と試行ボランティアおよび連用者2名の成績を報告した上で、本剤に含まれる諸成分の分析および安全性に関する追試と、これに基づく製造元への適切な対応を行政機関が早急に取ることを要望した。関係各位の早急な対応が必要であることを指摘する。

文献
1) 野上浩志.毛髪中ニコチンを指標とした妊婦の受動喫煙による低体重児出産のリスク評価と禁煙指導.平成8年度地域保健福利研究助成報告書(大同生命厚生事業団) 1998;309-314.
2) Heatherton TF, Kozlowski LT, Frecker RC, et al. The Fagerstrom test for nicotine dependence: A revision of the Fagerstrom tolerance questionnaire. Br J Addic 1991; 86: 1119-1127.
3) Ueda K, Kawachi I, Nkamura M, et al. Cigarette nicotine yields and nicotine intake among Japanese male workers. Tobacco Control 2002; (in press).
4) Wald NJ, Boreham J, Bailey A, et al. Urinary cotinine as marker of breathing other people’s tobacco smoke. Lancet 1984; 8370: 230-231.


本稿の概要は第60回日本公衆衛生学会総会(平成13年11月1日,高松市)において発表された。





”NEOCEADER” CONTAINS NICOTINE.
A REPORT OF TWO USER’S NICOTINE ADDICTION


Hideo TANAKA1),
Hiroshi NOGAMI2),
Hidekazu NAKAGAWA3),
Seiko HASUO1)

1) Department of Cancer Control and Statistics, Osaka Medical Center for Cancer and Cardiovascular Diseases.
2) Osaka Prefectural Institute of Public Health
3) Shuso Municipal Hospital



”Neoceader smoking” is widely marketed in drug stores as an over the counter expectorant for cigarette smokers in Japan. Using high-pressure liquid chromatography, we determined that one piece of Neoceader (3cm) contains 0.79mg of nicotine, which is equivalent to one-sixth of the amount of nicotine in one Japanese cigarette (Mildseven extra-light, Mildseven super-light, or Sevenstar). Two patients who had switched from cigarette smoking to Neoceader smoking, subsequently became addicted to nicotine. The cotinine concentration in their urine were 937ng/ml and 2724ng/ml, respectively. These findings demonstrate that Neoceader contains nicotine and that its use can lead to nicotine addiction.

Key words: Neoceader, nicotine, smoking, over the counter