禁煙タクシー国家賠償訴訟
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タクシーセンター訴訟
訴状(2006年5月30日)
裁判記録
第1回口頭弁論(2006年 7月 5日)
第2回口頭弁論(2006年 9月27日)
第5回口頭弁論(2007年 4月25日)


禁煙タクシー訴訟
プレスリリース・訴状のポイント(2004年7月22日)










2010年(平成22年)4月19日掲載

禁煙タクシー国家賠償訴訟

禁煙タクシー運転手安井幸一氏が、2008年3月1日、タクシーの喫煙を放置した国の責任を求めて提訴したもので、最高裁上告中です。その資料を掲載公開します。

結審に際しての一言(平成21年9月14日)
結審に際しての一言
(平成21年9月14日)
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東京高裁判決文(平成21年9月14日)
東京高裁判決文
(平成21年9月14日)

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東京交通新聞記事(平成21年12月7日、12月14日)
東京交通新聞記事
(平成21年12月7日、12月14日)

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上告理由書(平成21年12月27日)
上告理由書
(平成21年12月27日)

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上告受理申し立て理由書(平成21年12月28日)
上告受理申し立て理由書
(平成21年12月28日)

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2006年(平成18年)5月30日付訴状

訴  状

2006年5月30日

東京地方裁判所民事部 御中

原告本人

          〒167−○○○○
            東京都○○○○○○○○
             ○○○○○○○○○○○○
             電話 ○○○○○○○○
                原 告   安井幸一

           〒136−0076
            東京都江東区南砂町7−3−3
             電話 03−3648−5131
                 被 告  財団法人東京タクシーセンター
                同代表者理事   稲葉興作


損害賠償請求事件

訴訟物の価額    1000万円
貼用印紙の額    5万円
予納郵券の額    6400円


第1 請求の趣旨
1 被告は原告に対し1000万円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日から年5分の割合による金員を支払え
2 訴訟費用は被告の負担とする
との判決及び仮執行の宣言を求める。


第2 請求の原因
1 はじめに

この裁判は、被告(旧称;東京タクシー近代化センター)が「喫煙家の乗客に気分よくタクシー車内においてたばこを吸っていただくことが、あるべきタクシーサービスである」との方針のもと、タクシー乗務員が換気のためにタクシーの窓を開けたり,乗客に対し禁煙を願い出たりする行為を「接客態度違反」との理由で一律禁止し,これに違反したタクシー乗務員に対し権限を逸脱して指導・処分を行い,もって受動喫煙を強要し,それがために原告に生じた健康被害その他諸損害について賠償を求める裁判である。


2 当事者
・ 原告
 原告は1933年生まれの男子である。1953年より法人タクシーの乗務員となり,1975年5月31日からは個人タクシー事業者となった。
・ 被告
 被告はタクシー業務適正化臨時措置法に基づき国土交通大臣が指定した適正化事業実施機関である。被告は、タクシー事業の近代化及びサービス改善を推進することなどを目的として1969年12月23日に設立された財団法人であり(旧称は東京タクシー近代化センター。略称は「近セン」。)、タクシー利用者からの苦情の処理や乗務員に対する指導などの事業を行っている。


3 タクシー車内での喫煙自粛を求める行為は許されない旨の被告の指導方針
・ 被告は設立当初から、タクシーは「走る喫煙室」であるとの認識のもと、喫煙乗客の喫煙行為に対するタクシー乗務員の対応措置(例えば、たばこの煙は安全運行の障害となるため喫煙を断る措置、受動喫煙による健康への被害や他の客の不快を防止するため禁煙を願い出る措置、喫煙者の同意を得ずに窓を開ける措置など。)は「接客態度違反」の行為であり、乗客からの通報があれば指導の対象とすることを徹底させた。そのためタクシー乗務員は、被告からの指導を受ければ雇用者(法人タクシー事業者)からの退職勧告・解雇の恐れや運輸大臣(現国土交通大臣)による処分の恐れがあるため、乗客が吸うたばこの煙による健康被害や危険運転強要の苦痛を甘受し隷属せざるを得なかった。
・ 原告は法人タクシーの乗務員であった1974年夏、銀座から六本木までの客5名を乗せた。この乗客のうち一人は乗車するや否や喫煙を始め、すると他の4名も併せてたばこを吸い出したため、たばこの煙がもうもうと車内に立ち込め、そのため視界が遮られ運行に危険を感じた原告は、「冷房をしているので窓を開けるか喫煙を控えてもらえませんか。」と懇願した。すると乗客は、「何を!タクシーではたばこはどんな場合でも吸ってよいことぐらいは知っているぞ。『たばこを吸うな』と言えば運転手がやられるのだろう。つべこべ言うなら近センに通報してやる。」などと言って原告の肩をこづき、「土下座して謝らなければ近センに通報するぞ!」と怒号したため、個人タクシー申請を控えていた原告は、近センから指導を受ければ申請資格が無くなるため、涙を飲んで土下座せざるを得なかった。この悔しさは32年経った今も忘れることができない。
 この事件は、タクシー車内での喫煙は乗客の権利であり、これを断わるどころか遠慮を願い出ることさえタクシー乗務員には許されず、気分を害した乗客の通報があった場合は当該乗務員を処分するという被告の方針が広報によって社会に広く行き渡っていた典型的な証左である。


4 原告が被告から受けた「接客態度違反」を理由とする処分
・ 原告は1975年に個人タクシー事業者となった。原告は、非喫煙者乗客・病人・乳幼児・児童などのためにたばこ煙による不快のない快適サービスを提供することは経営者の自由に委ねられており、かつそれこそが望ましい接客方針であるとの信念を抱いていた。
 しかし被告は、事業者研修会などにおいて、「タバコを断られたとか、タクシー車内に禁煙マークが貼られていたなどの苦情が多い。タクシーでは乗客の喫煙は自由であるから、いかなる場合においても喫煙を断わってはならない。禁煙マークを貼ることも禁じられている。」等の指導を行った。原告は、指導機関である被告の言葉を度々聞くに及んで、自らのタクシーを禁煙車とすることによってサービス向上をはかりたいとの夢をあきらめざるを得なった。
・ 原告がタクシーに乗務中の1986年2月26日深夜、乗客が乗車すると直ぐに喫煙を始めたことがあった。基本料金程度の短距離(短時間)の乗車であったため、原告は、「喫煙されるならば窓を開けていただけますか。次のお客様がご利用になりますのでお願いします。」と願い出たが無視された。再度依頼したものの反応がなかったため、原告は運転席の窓を5・程度開けた。すると乗客は、「寒いから窓を閉めろ!」と原告を罵った。「お吸いになる間は窓を少しだけ開けさせてください。煙がたまると次のお客様に迷惑ともなりますので。」と原告が再度依頼したところ、この乗客は、「俺は客だぞ!客の喫煙を断ることが出来ないことは知っているぞ。近センに通報してやる!」と原告を脅したうえ、運転席後部を足で蹴り、原告の肩を突き、帽子を剥ぎ取る等の暴行を加えた。乗客からの通報があれば、被告は運転手の言い分は聞かず、乗客がすべて正しいとして扱うのが通例である(例えば、乗客からの通報に対し異義を申し立てたが聞き入れられず、そのため運転手が抗議の自殺をした例も
ある。)ため、「謝らないなら近センに通報するぞ!近センはタクシー車内の 喫煙は自由であると言っているではないか!」などと連呼し暴行を続ける乗客に対し、原告は被告に通報されたならば組合にも迷惑となるので堪え忍び1時間以上も謝り続けたが、翌日、被告から出頭の命令がきた。
  この際の被告の対応は、「いかなる場合であっても喫煙する乗客に対し禁煙を願い出ることはできない。喫煙乗客の気分を害したら、それだけで『接客態度違反』として指導・処分の対象になる。暴行を受けたのも,あなたの態度が悪いからである。」などという信じがたいものであった。原告は被告の指導係宇都宮氏に対し、たばこの害について記述された文書を示し健康への影響を訴えたものの、同氏は「我々は運転手の健康がどうだこうだなど聞きたくない。お客さんはタバコの好きな運転手に乗れば気分を害さなかった。タバコ嫌いな運転手は迷惑だ。タバコを嫌う客に配慮したいなら、臭いが消えるまで営業しなければよい。」などと原告に対し怒鳴りながら指導を行った。また被告は、「禁煙タクシーは禁止されている。禁煙という札をつけただけで違反であり、指導・処分の対象とする。」、「タクシーでは喫煙乗客が常識である。窓を開けないでタバコを吸いたいと客が言えば、それが常識となる」、「タバコの煙に害があるとするならば、貴方は排ガスのある道は歩けないだろう。タバコが嫌ならこの仕事辞めてもらいたい。」等々と述べた。原告は、被告のこのような指導に納得が行かず、「通報者を暴行罪で訴えるから、その氏名と住所を教えて欲しい。」と被告の安藤太郎会長(当時)宛に文書にて要請したものの、何の応答もなかった。


5 受動喫煙による健康被害
・ 受動喫煙の健康への害は真に甚大である。副流煙(=喫煙の際にたばこの先から放散される煙)は200を越える種類の有害物質を含み、喫煙者のそばにいる者(運転手は喫煙乗客とは50・前後の至近距離にいるため、煙からの逃げ場はない。)は、これら有害物質を強制的に吸わされる。この強制受動喫煙により、運転手は発ガン物質・心臓血管毒性物質・呼吸器刺激物質などを体内に取り込み、急性症状により危険運転を余儀なくされ、慢性疾患として各種がんや虚血性心疾患(狭心症など)・動脈硬化促進・椎間板ヘルニア・糖尿病など200を越える種類の病気に罹患を余儀なくされる。厚生労働省は、2000年に「受動喫煙での死亡者は1万9000〜3万人余と推定される。」と被害の大きさを発表している。英国の聖ジョージ病院医科大学のウインカップ教授らは「たばこを吸ったことがない人でも、受動喫煙によって心臓病の発病リスクが50〜60%アップする。」と発表し、WHOも「受動喫煙に安全なレベルはない。」と勧告している。東京地裁も過日、「タクシーでの恒常的な受動喫煙の健康被害は看過できない。」と認めている。
被告が設立された当時、既にこの受動喫煙による健康被害の甚大さはWHOなどの指摘により広く認知されていた。タクシー内は最も狭い密閉された空間であり、50・前後の至近距離で有害性の高い副流煙を乗務員は強制的に吸わされる結果、受動喫煙の被害は甚大である。タクシー車内では1〜3本の喫煙で法定基準値の20〜60倍以上の粉塵濃度となり、基準値に戻るまでに1時間前後を要する。よって、タクシー乗務員の健康だけでなく次の乗客に対しても健康被害と不快を与える。
しかし、これらは経営者のごく簡単な努力(=喫煙しようとする乗客に対し喫煙の自粛をタクシー乗務員が願い出ることを認めるとか、窓を開けることを認めるとか。)で解消出来るものである。しかし、このような行為をタクシー乗務員が取ることを、被告は、「喫煙者の満足度が優先する」として一律全面的に禁じて来た。タクシー乗務員のたばこによって汚染されていない空気を吸う権利や快適な職場において営業する権利、タクシー利用客の快適な公共交通機関としてタクシーを利用する権利等は、過去から現在までに至る被告の組織
としての一貫した方針により侵害され続けている。
・ 原告は、法人タクシーに乗務していた時代は長時間(平均連続約20時間、 隔日勤務)、密閉された極めて狭い空間であるタクシー車内での労働に従事し ていた。被告が設立される以前は、乗客に対して禁煙を求めても乗客は素直に従っていた。喫煙をめぐるタクシー乗務員と乗客との間のトラブルなどはほとんどなく、仮にトラブルがあったとしても「接客態度違反」として処分されることはなかった。
 しかし、被告が設立された1969年以降、タクシー車内での喫煙をめぐる様相は大きく変わった。被告は、「タクシー車内における乗客の喫煙は自由であって、これを断わったり遠慮を願い出て、それがために客の気分を害した場
合は、当該乗務員を『接客態度違反』で指導・処分する」との方針を明確にし た。被告は、「乗務員から喫煙を断られて気分を害した場合は近センまで通報 
して下さい。通報があれば厳重に指導します。」旨の広報を徹底した。それがために乗客は、タクシー車内での喫煙は権利であると考え、タクシー乗務員が禁煙を願い出ると「近センに通報するぞ!」などと乗務員を脅かすようになった。そのため原告は、体調不調の場合も禁煙を求めることが出来ず、1乗務あたり30〜40本以上の喫煙を容認せざるを得なくなった。個人タクシー事業者となってからも同様で、喫煙を断ることができず、毎日(10時間稼働)20本以上の受動喫煙の被害を受けざるを得なかった。

 
6 被告によるタクシー事業者・乗務員に対する指導の実態
 被告がいかなる方針のもとタクシー事業者・乗務員に指導を行って来たかを 示すため、係官の発言のいくつかを以下に例示する。
 ・ 1986年3月3日(被告指導係宇都宮氏の発言)
    「タバコの好きな個人タクシーさんに乗ったら何も問題ないでしょう。
そうじゃないですか。タバコ吸っているようなね、タバコ好きの個人さんに乗れば、何もなかったでしょう。」、「タクシーはサービス業だ。窓を開けないならタバコを吸わないで下さいと言えば、客が気分を害する。」、「タバコの煙を気にしたら、外で運転も出来ないし、道を歩くことも出来ないでしょう。」、「タバコを吸ったら肺ガンになるんだったら、道路を歩いて排ガスを吸う人はいっぱいいるのだ、どうするんだ。そんなこと気にしたら道も歩けないだろう。」、「車内でタバコを吸うときは窓を開けて吸うのが常識だと!そんな常識を誰が決めた。常識的な窓の開け方なんかどこにもないんだ。個人(安井)さんの考え方がおかしい。お金を払う客が窓を開けないでタバコを吸うといえば、それが常識だ。」、「タバコに害があるとかないとか、我々に関係ないことだ。」、「健康が害されたらどうだこうだ、個人さんが病気になったらどうだ、こうだ、なんてどうでもよい。我々はそんな話、聞きたくない。」、「自分の健康が大事だと?だからどうなんだ。客は金を払うんだぞ!この客が怒って当たり前だ。」、「健康を予防する前に、このお客は金を払ってくれるんだぞ!お客さんの気分を害してもよいのか。タバコが嫌ならこの仕事辞めてもらいたい。」
・ 2004年5月28日(被告調査課玉田氏の発言)
「喫煙を断われば、当然、接客不良ですね。指導します。」、「喫煙を断わってはならないとなっています。」、「タバコ臭くて気分が悪くなったなどの苦情は、苦情としての処理はしません。」
・ 2005年12月15日(被告係長岩下氏の発言)
「禁煙に協力下さいとの表示は、おそらく運転手が勝手に出していると思います。そのような表示を出すことは禁じられています。それで気分を害したら、会社か当方に通報してください。禁煙車でない場合は、喫煙を断ることもお願いもできない。お願いの表示も出せないことになっております。そのような表示があった場合は通報してください。」、「禁煙車のある会社に入ればいいんですよ。たとえば、日の丸とかの会社に入るときに禁煙車はないのですから、それを承知で入社した以上は会社の方針に従わなければなりません。自分の健康などの理由は通じませんよ!」
・ 2005年12月19日(被告課長武藤氏の発言)
「タバコがあるから乗務員さんが健康を害するというなら、タバコは国が販売しているから国を訴えなさい。喫煙を断れば、『接客不良』とする。喫煙を規制するのは局だが、運転手を処分する権限が近センにはある。他にも職業はいっぱいあるのだ。タバコの煙に害があるから嫌だというなら他の職業に就きなさいよ。喫煙を断れば法律で違反だ」。
 被告は、以上のとおりの認識のもと、タクシー車内で乗客が喫煙すれば、乗務員にとってどのような劣悪な職場環境になるか、受動喫煙によって乗務員はいかに甚大な健康被害を被るか、たばこの煙の粉塵が安全運行へいかに大きな危険をもたらすか、たばこの臭いは喫煙乗客以外の乗客へいかに不快な思いをさせるかなどの問題点の調査は一切しないまま、ただただ「喫煙乗客の喫煙欲を満たすことが、タクシー営業に課せられたサービスであり最も重要な接客態度である」として、タクシー車内での乗客の喫煙を遠慮願い出るという乗務員の行為を指導と処分の対象として来たのである。
  被告設立以前は、喫煙乗客はタクシー乗務員の指示に従い、トラブルや苦情通告などはほとんど無かった。「タクシー車内では法律で喫煙できることになっている。乗務員に禁煙を求められたら通報下さい。『接客不良』として指導します」などと被告が広く宣伝し、このような教育を受けた喫煙者乗務員などが口コミで客にその旨を伝える結果となった。喫煙者の気分を害することは法律違反だとして指導と処分を行い続けた被告の責任は真に重大である。


7 原告に生じた損害と責任原因
・ 被告の不法行為と損害
  被告は原告を含むタクシー乗務員に対し、「乗客の喫煙を拒むことは一切許されず、このような行為を行った乗務員に対しては『接客態度違反』を理由に指導・処分を行う」旨の方針を一貫して実行して来た。このような指導・処分には何も合理性もなく、これは原告に対する不法行為(民法709条)に該当する。
 その結果、原告には次のような損害が発生した。そして原告は、これらの損害が発生した事実とその真実の加害者が被告であることを、2005年暮れに至って初めて知った。更に、以下の損害に対する慰謝料は、1000万円を下ることはないと言うべきである。
・ 健康被害
原告は、被告が設立されて以降、自ら禁煙タクシーを導入するまでの18年以上の間、1日平均20本以上,乗客の至近距離での喫煙によって、高濃度の粉塵・副流煙を強制吸引させられたことが原因で健康を害された。
 原告は1994年に狭心症と診断され、今もなお健康被害は悪化の一途を辿り、原告は治療を余儀なくされている。これは真に甚大な損害である。
・ 休業損害
 禁煙マークをタクシー車内に貼ったり、乗客に対して喫煙の自粛を願い出ることは法律で禁止されている旨の被告の不当・違法な指導・処分に対抗するため、原告は休業を余儀なくされた上、多大の心労を費やさざるを得なかった。
・ 快適な職場で労働する権利の侵害
 禁煙マークをタクシー車内に貼ったり、乗客に対して喫煙の自粛を願い出ることは法律で禁止されている旨の被告の不当・違法な指導・処分により、原告は快適な職場で労働する権利を侵害された。
 ・ 受動喫煙の強制による危険運転強要の被害
   タクシー乗務員は、乗客の人命を預かり、目的地まで安全に運行しなければならない義務を負っているため、絶えず緊張のもと労働している。
 原告は乗客が吸うたばこの煙による急性症状(めまい・目の刺激・咳き込み)と視界の阻害により集中力をそがれ、事故となった経験もある。タクシー車内において乗客の喫煙行為を遠慮願い出ることは一切許されないとの被告の指導により、原告はもうもうと立ち込めるたばこの煙の中で運転を余儀なくされ、危険運転の恐怖にさらされ続けた。
・ 個人タクシー経営者としての経済的自由権の侵害
  被告は、タクシー車内では喫煙旅客の満足感が最優先するとの指導を行い、乗務員が行う禁煙依頼や喫煙拒否及び窓を開けての換気行為等も「接客態度違反」として始末書の提出を強要した。始末書提出を拒否すれば「運輸局に通報すれば始末書程度の処分ではすまない。」との脅しもかけた。安全で快適で健康的な空間を乗客に提供したいという個人タクシー経営者としての原告の経済的自由権が侵害された。
・ 被告は、以上の原告の主張に対し、「自らが行っている行為はタクシー運転手の業務の適正化を図るための指導と教育であり、民間団体である一公益法人としての業務の範囲を超えるものではなく、タクシー事業者やタクシー乗務員を監督下に置く権限を有していないから強制力を伴うものではない。」とか、「指導と教育の対象は、タクシー車内での乗客の喫煙の可否自体ではなく、乗客の喫煙行為に接した際の個々のタクシー乗務員の接客態度である。」などと弁解をするのであろう。
  しかし、この弁解は失当である。禁煙タクシー制度がない時代、「禁煙車でもないのにお客に対し『たばこを吸わないで』と言うタクシー運転手」との苦情に対し、被告は「タクシー車内でのお客様の喫煙を乗務員が断わることはできません」と断言し、「本件につきましては、早速、会社の責任者と当該乗務員に対し、指導しました」と明確に回答している。タクシー会社も、被告のこの方針を受けて「今後このような苦情があったら退職してもらうと勧告すると同時に、始末書を書かせたこともご報告させていただきます。」と回答している。
  要は、被告が行っている指導や処分は、タクシー事業者と乗務員に対し、単なる「勧告」には止まらない極めて重大な効果(強制力)を事実上も法律上も及ぼすものなのである。


8 結 語
・ 被告は、以上述べて来たとおり、「タクシー車内において、乗客の喫煙を断わったり、遠慮を願い出ることは一切出来ない。窓を開けるにも乗客の同意が必要である。これに違反した乗務員に対しては『接客態度不良』として指導・処分を行う。」旨の一貫した方針のもと、タクシー事業者と乗務員に対し指導と処分を行い続けて来た。
 被告は原告に対しても、「喫煙を断られたとの苦情が多い。タクシーでは喫煙は自由となっているので断ってはならない。」等の指導を直接・明示的に行って来た。
 更に被告は、「喫煙によるトラブルは常に『接客態度違反』に該当し乗務員に責任があるから、喫煙を断わられた場合は指導・処分を行うので近センまで通報するように。」などと広く宣伝し続けた。
 このような被告の指導・処分・宣伝には何の合理性も存在しない。これらが明確に違法であることを是非とも貴裁判所に認定していただきたい。
・ 法人及び個人タクシー事業者は被告の指導の下に絶えずおかれ、その指導に従うことを誓約させられている。被告の指導に従わなければ事業者は営業免許を取り消されたりする可能性が高いという紛れもない現実がある。法人タクシーの乗務員も、被告から指導・処分を受ければ、会社から退職を強要されたり、減俸されたりなどの重大な不利益を被る。被告が日々行っている指導は、極めて大きな影響を及ぼすものであり、強制力を伴うものである。
 この点も、貴裁判所には是非ともご理解いただきたい。
・ 受動喫煙が健康に及ぼす被害の甚大さは真に甚大である。東京地裁も、「タクシー乗務員の場合、分煙が不可能な狭い密閉されたタクシー内で乗客の吸ったたばこの副流煙を恒常的に吸わされることとなり、その健康に及ぼす影響は看過しがたいものがある」と指摘している。
 たばこが健康に及ぼす悪影響は最近分かったものではなく、被告設立時から既に広く知れ渡っていたのであるから、被告は自らが行った違法・不当な指導・処分・宣伝がもたらすであろう結果について予見可能性があり、賠償責任を 免れない。
 被告が設立以降現在までの間一貫して行ってきた「乗客の喫煙を拒むことは一切許されない。乗客からの苦情の申し出があれば、直ちに指導と処分を行う」との方針は原告を含むタクシー乗務員の健康というこれ以上ない重大な法益を侵害する違法性の極めて高いものであることも、貴裁判所にはご理解いただきたい。
・ 東京都江戸川区の職員の受動喫煙被害裁判で東京地裁は、受動喫煙の被害を
認め、3ヶ月間の職場における受動喫煙被害・苦痛に対し5万円の損害賠償を命じている。原告は、被告設立以来の受動喫煙強要の指導により原告に対し、禁煙タクシー導入に至るまでの18年間、法定基準値の60倍以上の粉塵濃度の中での営業を命じ、心臓病に罹患させる等の損害を原告に与えたのであり、それによる不安と苦痛は原告が生きている限り消えない。東京地裁の上記判決を参考にすれば、本件では1000万円の損害賠償では十分ともいえる。
・ 以上のとおり、原告は、不法行為を行った被告に対し、損害賠償(民法709条)として損害賠償金1000万円の支払いを求め、この裁判を提起する。


第3 証拠方法
被告の答弁を待って、追って提出する。


第4 付属書類
資格証明書(履歴事項全部証明書)
                            


《以上》








平成16年7月22日付プレスリリース

「禁煙タクシー訴訟」本日提訴!
狭いタクシー車内のタバコ汚染は深刻

 本日、個人タクシー運転手の安井幸一氏が団長となって、国を被告に東京地裁に「タクシーの禁煙化」を求めて損害賠償訴訟を提訴いたしました。
 日本のタクシーの総数は約26万台(法人・個人計)と言われています。
 1988年2月26日、”約款変更”によって「禁煙タクシー」が認められ、安井幸一、平山良吉の2氏が初の個人禁煙タクシーとして営業を開始致しました。ところが現在まで、全国でわずか3800台の禁煙タクシーが走行しているだけで、特に法人タクシーはわずか1%にも満たない状況が続いており、全ての交通機関の中で最悪の数字を示しています。
 これは、国(旧運輸省→国土交通省)がこの問題に対して極めて冷淡な態度を執り続けてきたことが最大の原因であり、長年「タバコ汚染タクシー」で苦しめられてきた安井氏の他、法人タクシー運転者の平田信夫、大畠英樹の2氏、そしてタバコの煙と臭いの全くないタクシーに乗りたい利用者が相談し、東京地裁に提訴したものです。
 2003年5月に施行された「健康増進法」では、喫煙者本人にではなく、施設の管理者等に「受動喫煙の防止措置」が求められており、タクシーも例外ではありません(国会委員会で厚労省の答弁)。法人タクシーの経営者や個人タクシー協同組合等に、国はきちんとした指導を行うべきですが、長年、これを放置したまま、今日に至っています。
 タクシーの車内は本当に狭い密閉空間です。東京大学大学院の中田ゆりさんが行った粉塵調査では、何と環境基準の20倍という異常に高い数値が検出され、客席での喫煙が運転者に大きな健康被害を与えることが確認されました。また、利用者の立場では、前に乗った人が喫煙したり、運転者が客待ちで吸っていた場合、その残留汚染と悪臭によって乗ったとたんに気分が悪くなるケースも数多く報告されています。
 「禁煙タクシー訴訟」に、報道関係各位のご理解とご協力を心からお願い致します。

■【原告(タクシー運転者)】(順不同)
 安井 幸一(個人タクシー運転者) ※原告団長
 平田 信夫(法人タクシー運転者)
 大畠 英樹(法人タクシー運転者)
■【原告(タクシー利用者)】
 渡辺 文学 他合計23名


【連絡先】
「禁煙タクシー訴訟」を支援する会
世話人代表 渡辺文学
〒102-0072 東京都千代田区飯田橋2-1-4 九段セントラルビル203
TEL 03-3222-6781 FAX 03-3222-6780




【訴状のポイント】
1.訴訟の態様
 タクシー車内での乗客の喫煙を禁止すべき措置を国が怠ったために生じた損害(慰謝料)を、乗務員及び利用者が、国家賠償法に基づき国に対し請求するものであり、請求額は、1,360万円(内訳=原告安井幸一1000万円、同平田信夫100万円、同大畠英樹30万円、同板子文夫ほか22名は各10万円)である。

2.請求の原因
@ タクシーの車内空間は、他の生活空間に比べて著しく狭い。狭いタクシー車内において喫煙すれば、本数によっては浮遊粉塵・ガス状物質など有害物質の濃度は、環境基準の20倍を遥かに超えることが明らかとなっている。乗客の喫煙により、乗務員は受動喫煙を強いられるが、受動喫煙の健康影響は、例えば国立がんセンターが「年に1万9000人が受動喫煙死、うち肺がんが1000〜2000人」と推計しているように、今日明白な事実である。またタバコ煙は、目および鼻を刺激し、頭・喉の痛みや視力低下、集中力散漫等を生じさせるため、安全運転に重大な障害となる。
A 運輸当局は、乗務員が喫煙する乗客に対して喫煙の自粛を求めることはもとより、窓の開放を求めることも乗客の気分を害するからとし、これに反した乗務員を「接客態度違反」として処分をちらつかせ、あるいは実際に処分してきた。これらの指導・処分を許す法律上の明文は存在しない。
B 労働安全衛生法第71条は、「国は労働者の健康の保持増進に関し必要な援助をすべき」と定めているにも関わらず、運輸当局はこれと逆行する対応を採り続けた。すなわち、受動喫煙の被害防止を求めるタクシー乗務員や、一般利用者からの要望に対し「健康被害や危険運転とかは、我々には関係ない」「タクシーはサービス業であり、金を払ってくれる客の気分を害してはならない」「タクシー乗務員は、いかなる場合においても、乗客の喫煙を拒否することは許されない。また、乗客が喫煙するに際し窓を開けることを拒否した場合は、それに従わなければならない」「タクシーは、禁煙という札をつけただけで違反である」「禁煙や窓の開放を願い出たために乗客が気分を害した場合は処分の対象となる」などと述べてきた。
 またタクシー経営者も利潤追求を第一義とし、「タクシーでタバコを吸えることがサービスである」などとして、喫煙者の満足のため車内喫煙の禁止・減少のための努力を行うどころか、マッチやライターを乗客に配布したり、「ご自由に喫煙下さい」とのステッカーを車内に貼るなど、一貫して喫煙を奨励してきた。
C 原告安井幸一は、標準運送約款に車内禁煙を命じる条項を加えた特別約款の認可申請を行っていたところ、1988年2月16日、運輸大臣(石原慎太郎)がこれを認可した。その後、2000年7月には標準運送約款が改正され、「当社の禁煙車両内では旅客は喫煙を差し控えていただきます。旅客が当社の禁煙車両内で喫煙し、又は喫煙しようとしている場合、運転者は喫煙を中止するように求めることができ、旅客がこの求めに応じない場合には、運送の引き受け又は継続を拒絶することがあります」と定め、禁煙タクシー導入の手続きが簡素化された。しかし、業界はこれに関心を寄せることなく、禁煙タクシーの普及は全体の1%以下にすぎない。
D タバコの煙に弱い病弱者・障害者・乳幼児等は、タバコ煙の残留する車両に遭遇することも多く、受動喫煙の被害を受けたりタクシー利用の機会を奪われてきた。
E 2003年5月から健康増進法が施行された。第25条では「学校、体育館、病院、劇場、観覧場、集会場、展示場、百貨店、事務所、官公庁施設、飲食店その他の多数の者が利用する施設を管理する者は、これらを利用する者について、受動喫煙を防止するために必要な措置を講ずるように努めなければならない」と定め、タクシーも同法の対象であるとの見解を厚生労働省は示している。
F 以上の経過と現状にありながら、運輸当局はいまだに「タクシーは公共交通機関ではないので、(禁煙にするための)指導はできない。タバコの臭いが嫌いならば禁煙車両に乗ればよい。雇われ運転手が乗客に禁煙を求めれば違反である」と明言している。運輸行政のこの姿勢が法人事業者の禁煙車導入を阻害している。

3.責任原因
 被告国(国土交通省、厚生労働省)は、国家賠償法に基づき、原告らに損害賠償義務を負う。
@ 日本国憲法第13条(生命、自由、幸福追求の権利)、25条(健康で文化的な生活、公衆衛生の向上・増進)。
A 受動喫煙防止のための適切な処置を講じるよう、国はタクシー事業者を指導すべき義務があるのに、それを怠った。

■弁護士 大野裕(東京弁護士会所属)
〒160-0023 東京都新宿区西新宿1-18-7 博愛堂ビル2F
大野法律事務所
TEL 03-5325-6521 FAX 03-5325-6522

■「禁煙タクシー訴訟」を支援する会
(世話人代表 渡辺文学)
〒102-0072 東京都千代田区飯田橋2-1-4 九段センタービル203
TEL 03-3222-6781 FAX 03-3222-6780







2006年(平成18年)7月5日(水)13:20〜13:40 東京地方裁判所

タクシーセンター訴訟第1回口頭弁論記録
出典:分煙社会をめざす会発行分煙壁新聞第40号(2006.8.15号)

平成18年(ワ)第11119号。原告の安井幸一さんは近セン(東京タクシーセンター(旧東京タクシー近代化センター[略称・近セン]))の「乗客の喫煙を断わることはできない」という方針により接客態度違反処分にされる等して受動喫煙を余儀なくされ、健康被害(狭心症)を受けたため、5月30日、近センに対し1000万円の損害賠償を求め提訴。被告は事実関係について「知らない」「認めない」等とする答弁書を提出。裁判官菅野雅之(裁判長)・杉山順一・岡本典子。原告は安井さん(本人訴訟)、被告側は代理人A子・同B男とタクセン職員らしきC男が出廷。傍聴者24名(傍聴席43席)。冒頭、安井さんは裁判長の許可を得て、用意した意見書を読み上げた。

安井 「近センは69年の設立以来『乗客の喫煙は断われない。乗客の気分を害したら接客態度違反』と運転手・事業者を指導してきた。74年、5人の乗客が喫煙し煙が充満、運転に支障を来すからと禁煙を依頼したところ『土下座して謝らなければ近センに通報するぞ』と脅され、やむなく土下座して涙にくれたこともある。個人タクシーになった後の研修でも近センの講師は『タクシーでの喫煙を断わることはできない』と訓示していた。86〜88年、営業を犠牲にして禁煙タクシー導入に奔走したが、この間、自宅・車庫を襲撃されてめちゃめちゃに壊されたこともある。近センの意向を受けている個人タクシー組合から除名画策も受けた。これらの精神的苦痛と営業機会喪失だけで1000万円を超える。安全運転は運転者の必須義務だが、密閉された狭い車内で喫煙すれば粉塵濃度は基準の20倍以上になり、目・呼吸器・循環器等に悪影響を及ぼす。また、煙で視界が遮られ、危険運転になる。近センの『タクシーは走る喫煙室』という認識に基づく強力な指導のため、私は極度の受動喫煙を強いられてきた。そのため狭心症になり、椎間板ヘルニヤの手術も受ける結果となった。近センの責任は重大。公正な判決を期待する」(傍聴席より拍手多数)
裁判長 「はい、静かにして下さい。で、安井さん、あなたの言い分を裏づけるような証拠をできるだけ迅速に出して下さい」
安井 「はい、じゃ次回迄に」
裁判長 「被告は財団法人東京タクシーセンターの設立の経緯とか組織とか、或いは権限とかタクシー乗務員との関係とか、そこら辺の被告自身の組織についての積極的な主張を、次回迄には出して下さい」
A子 「はい。それに関して訴状の『原告に生じた損害と責任原因』という所に『こういう指導処分を受けたからこのような損害が発生した』というくだりが縷々続いてますが、期間がかなり広範に渡っており、積極的な反論をするにしても、法令とかが結構変わっているので、ここの部分の指導処分がいつのものなのか、きちんと特定して頂きたい。それがないといつの部分についてご説明申し上げればいいのかよく分らない。それから、あと簡単に『その結果こうだ』という風に書いていらっしゃるが、勿論我々の方でもどういうことをやっていたのか、まあ権限というよりは単なる指導であるんですけれども、こういうことをやってましたというので、どうしておっしゃってるような損害とそれが結びつくのかということについて、もう少し言って頂かないと、我々の方も的を得た反論というのができかねます」
裁判長 「第一点目の方は今確認したいと思いますけど、また二点目の方は勿論原告側でその点主張はされればそれはそれで結構ですが、被告側の方でも被告はこういう組織でこういう権限の元でこういうことであったということ自体言って頂くのにそれほど無理はないんじゃないかなと思いますので、最低限そこの所はご主張頂きたい」
A子 「では、そのように」
裁判長 「安井さん、今相手方からお話があったのは、あなたの訴状に『原告に生じた損害と責任原因』という部分、あなたの方の一番の、あなたの言い分の骨格になる部分なんですけど、『被告の不法行為と損害』という所にね、上から3行目に『このような指導・処分には何の合理性も無く、これは不法行為に該当する』と、こう書かれてますよね。ここに書いてある『このような指導・処分』というのは時期的にはいつからいつ迄のことをあなた方は指して言ってるんですか、というのが相手方の質問なんですが」
安井 「それは結局指導を受けた日ですね。指導というかまあこちらは処分だと思うんですが、呼び出されてもう2時間3時間に渡って私は異議を申し上げる…」
裁判長 「一番最初にそういう風に指導を受けたのはいつですか?」
安井 「86年の3月の3日です。午後5時迄、2時から5時迄の間…」
裁判長 「とりあえず、一番最初にそういう思いをしたのは今言われた86年の3月3日であると。それからね、今回損害を求めてる分ていうのは……基本的にはあなた今でも個人タクシーに乗ってる訳ですか」
安井 「はい、そうです」
裁判長 「そうすると今現在もそういうような相手方の不法行為を受けてるんだっていう風に言われる訳ですか?」
安井 「いえ、私はもう禁煙タクシーを導入しましたんで」
裁判長 「あなたが禁煙タクシーを導入されたのはいつのことになります?」
安井 「88年2月26日に認可を頂いて、当年の4月1日から完全禁煙タクシーと」
裁判長 「じゃあ、一応88年の4月1日から禁煙タクシーに乗ったということなんで、それ迄の間、86年3月3日から88年の4月1日ね、これ迄の間に行なわれた相手方のさまざまな不法な行為、これを問題にしたいんだと」
安井 「それ以前に運転手教育、いわゆる事業者研修会に於いて近センが『喫煙を断わるという苦情があるから喫煙は断われないことになっているからトラブルを起こすな』という訓辞を3〜4回は聞いております」
裁判長 「研修会の訓辞というのも今回の不法行為の対象にします?」
安井 「したいですが、とにかく昔ですので、漠然と聞いていた組合員はやめているのも多いし、記憶はないかと思います」
裁判長 「あなたはそれを自分の受けた損害との関係で不法行為だという風に言います?」
安井 「ええ、不法行為だと思います」
裁判長 「その研修会というのはいつのことなんですか?」
安井 「これは申し訳ないですけど、日にちは記録しておりません」
裁判長 「おおよそでいいんですけどね、何年頃なのか」
安井 「個人タクシーとなったのが75年、私が問題を起こしましたのは86年。その前の年か前の年に聞いたんです」
裁判長 「では86年の数年前ぐらいのことというぐらいで伺っておけばいいですから。じゃあ一番問題にしたいのは86年の3月3日ですね、そこからその2年後の88年の4月1日迄、この間のことを一番問題にしたいと。また86年の数年前ぐらいの間で、研修の時なんかで指導を受けた内容とか訓辞についても問題にしたいと」
安井 「はい」
裁判長 「最大限86年から数年前ぐらい迄の範囲ですから、82年ぐらいから88年ぐらい迄の間を前提にして(被告は)総論的なことをご主張頂ければよろしいんじゃないでしょうか。各論については安井さんの方に少し具体的に証拠を踏まえて明確にしてもらって、それを踏まえて審理をやりたいと思ってます」
A子 「分りました」
安井 「はい」
裁判長 「次回は9月27日午後1時20分。626法廷。安井さんは証拠と、あなたのもう少し具体的にこういうことを指導されたり、こういうことをされたからそれがあなたの損害につながっているんだという、そこら辺をもう少し明確にポイントを絞って書いて頂いたようなものを準備書面で出して頂ければ、より審理は進めやすくなると思いますので、そういうことも含めて準備して下さい」(13:40閉廷)






2006年(平成18年)9月27日(水)13:25〜13:43 東京地方裁判所民事50部(626号法廷)

タクシーセンター訴訟第2回口頭弁論記録
出典:分煙社会をめざす会発行分煙壁新聞第41号(2006.10.15号)

平成18年(ワ)第11119号。本人訴訟。裁判官菅野雅之(長)・杉山順一・岡本典子。
被告代理人3名(黒河内明子・古屋正典・黒田貴和の各弁護士=いずれも柏木総合法律事務所)出廷。原告は診断書や大和浩氏の意見書、中田ゆり氏のタクシー内煙害実験報告の他、近セン宇都宮氏とのやりとりの録音テープ等を証拠として提出。また「宇都宮氏が原告を呼出して行なったものは『指導』にあたるのか?」等の求釈明(相手側に説明させるよう裁判長に求めること)を行なう。併せて当該記録の提出を要求。被告はタクセンの紹介資料の他、「1986年3月3日の事案では接客不良の苦情があり、原告に来所要請の上、事情を聞き弁明を受けただけ」等とする「準備書面(1)」を提出。13:25開廷/傍聴約20名。
裁判長 昨日、原告から求釈明が提出されて、被告に釈明を求めたいということですね?
安井 はい。
裁判長 じゃあ、答える必要性その他も含めて、(被告に)ご検討頂くことにしましょうかね。
黒河内 前回、原告さんのご主張をはっきりさせて頂きたいということで、前回で述べたところを書面で出して頂く形になったと思うんですが、ここに書いてある求釈明、今受け取ったばかりで何とも言えませんが、その必要性を判断するに当たっても、まずご主張の特定というものがないと、必要性が判断できないかもしれないという懸念があるんですが。
裁判長 とりあえず求釈明はお預かりして、書証関係を確認します[原告書証の原本と写しの別を確認]。それで安井さん、さっき被告の代理人が言ってた事と絡むんですが、訴状でいろんな事を言って頂いてるんですが、前回も法廷で意見を述べられましたが、その内容の一番重要な点を整理すると、あなたのおっしゃりたいことは、多分1975年頃から1988年頃迄の間に被告が事業者研修会に於いて「(乗客の)喫煙を(運転手は)断わっちゃならない」という趣旨の指導を行なって受動喫煙を強要してきたんだと、一つはそういう事をおっしゃりたいんでしょうね?
安井 はい。
裁判長 この点はあなたも非常に不服があって、「不法な行為だ」と言いたいというわけなんでしょ?
安井 はい。
裁判長 それから、もう一つ、1986年の2月、3月ぐらいのところかもしれないけれども、「接客態度違反だ」という風な形で指導を受けたんだと、そういうことを言われてるんですが、「窓を開けたので云々」という部分ですよね?
安井 はい。
裁判長 だから大きく言うとその二つが相手方に不法行為があるんだと、賠償を求める原因になると、そういう風に伺っていいですかね?
安井 はい。それともう一つ、それの為に健康被害を受けたと。
裁判長 うんうん。まぁそういうようなことで、あなたの方が健康被害を受けたからこそ損害賠償を請求したいんだと、そういうようなことね?
安井 はい。
裁判長 あなたの主張する不法行為の具体的内容としては、研修における指導と1986年に受けた指導と、そういうことによって受動喫煙を強要されて、健康被害を被ったと、従って損害賠償を求めると、そういう内容なんだということを記録にも残しておきますからね。
安井 あ、お願いします。
裁判長 では、そういう内容だという前提で(被告は求釈明への回答を)ご検討頂ければよろしいのではないでしょうか。
黒河内 では、今のは調書に残すんですね?
裁判長 はい。それでは特に今の内容について、1986年の多分2月27日頃のことだと思うんだけど、原告の方に一定の「指導」的な事を言ってること自体は、被告の方も事実関係としては認められてるんですよね?
黒河内 (少し言い淀んで)そうですね、それが「指導」というかどうかは別として。
裁判長 だから私が今申し上げたいのも、そこで行なった事について、具体的中身がどういうことで、それは法的にどういう位置づけになるものなのかというあたりを、さっきの(原告の)求釈明と絡むのかもしれませんが、少しご説明を頂いた方がよろしいんじゃないかなと、そう思ってるんですが。そのあたりを被告の方で反論するような準備書面を提出されればよいんじゃないかなと思うんですが。
古屋 (ややシドロモドロ風)当時のその、原告に対する、何ていうか、こちらの行なった行為について…
裁判長 うん、行なった行為が具体的にこういうことであって、それはこういう法的な意味合いがあり法的な効果がある、或いは何もないということであればそれは何もないと。それはこういう理由で何もないんだと、まあそんなことなんだろうと思うんですけどね、そちらの方で恐らく言われることは。だから、そこは今原告の方で言われて、裁判所の方でもまあここが問題ではないかと申し上げた点がポイントになる訳ですから、その点についての被告側の対応というのを明確にして頂ければよろしいんじゃないでしょうか。
古屋 (やはりシドロモドロな感じ)原告さんへの、その、被告側の、その、何と言うか、ま、指導かどうか分かんないですけど、行為の内容、具体的に内容自体が記録とか残っていない時に、それについては原告側が出している録音を前提にするということですか?
裁判長 そこはもう被告側のご判断だと思いますよ。それ以上に被告側で事実関係を明確にする資料が今現存していないのであれば、まあそれ(録音テープ)を前提にするなり、或いは被告の方でいろいろ事情聴取等行なった結果は、当時の一般的な対応とするとこういうことだと推測されるということであれば、そういうような中身にして頂いても結構であるし、そこは被告側のご判断だと思いますよ。
古屋 はい。
裁判長 じゃあ次回はそういうことで、相手方の方に、安井さんに対して何らかの行為なりをしたというのであれば、それはどういう意味合いのものかといったあたりについて主張してもらうと、こういうことにしますからね。
安井 はい。
黒河内 原告の証拠説明書に記載がないんですが、立証趣旨というのはお示し頂けるんでしょうか? 今の期間以外のいろいろな出来事を綴ったものが沢山あるので、どういう位置づけでこれが出されているのかという事が分からないと…
裁判長 (笑顔で)分っからないことは分っからないでよろしいんじゃないでしょうか[傍聴笑]。安井さんの方で、この証拠はこういうことを明らかにする為に出したんだということを明確にされたいという事であれば、その点についてもう少し記載して頂いても構わないですよ。
安井 ああ、そうですか。
裁判長 構わないですけども、特に今の段階でそこ迄明らかにする必要がないという事であれば、あとはもう被告側の判断でその点を斟酌してご判断頂ければよろしいんじゃないですか?
黒河内 分かりました。
裁判長 はい、では次回は11月22日(水)1時30分ということで、またこの法廷に来て下さいね。
安井 ああそうですか。
裁判長 被告側は11月15日迄に書面を出して頂くということでお願い致しますね。じゃあ、相手方の書面が11月15日迄に出るということですから、またそれを読んで検討して下さい。
安井 はい。
裁判長 よろしいですね。はい、それじゃあ…
安井 ちょっと裁判官。(禁煙タクシー導入の動機と決意について)喋らせて頂きたいと申請を出してたんですが、時間がないようですので、それを甲28号証として提出したいと思います。
裁判長 ああ、そうですか。では提出して頂いても構わないですよ。ちょっと見せて貰えますか? はい、じゃ陳述書(7)という事でね。じゃ、よく読ませて頂きますから。はい、今日はどうもご苦労様でした。【13:43閉廷】






2007年(平成19年)4月25日(水)16:00〜 東京地方裁判所民事50部(626号法廷)

タクシーセンター訴訟第5回口頭弁論記録
出典:分煙社会をめざす会発行分煙壁新聞第44号(2007.5月号)

 4月25日、タクシーセンター訴訟第5回口頭弁論が東京地裁で開かれた。原告の安井幸一さん(個人タクシー運転手)はこのほど喉頭癌との診断を受け、大野裕弁護士に代理人を依頼することになった。被告側は黒河内代理人らが出席。傍聴席にタクセン研修部長の姿あり。裁判長は菅野雅之。事前に、原告は準備書面(4)を提出し、受動喫煙の危険性や「乗客の喫煙は断われない」等の被告の不当な指導を指摘。被告は「指導は強制ではない」等の責任回避に終始する準備書面(4)を提出。
◆裁判長=安井さん、お体大変らしいけど、いかがですか?
◆安井=はい、有難うございます。あさって手術することになりました。
◆裁判長=では、書証の確認ですが、松崎道幸医師の意見書は写しなんですが、赤い判子の捺された原本は手元にありますか?
◆安井=原本はまだ届いてないんですが。
◆裁判長=まだ届いてないのであれば写しということで構わないですよ。証拠説明書には原本とありますが、これを写しと……
◆安井=(傍聴席の支援者から原本を手渡され)あ、いま届きました。(傍聴爆笑。「可愛い」の声あり。裁判長苦笑)。
◆裁判長=じゃあ、原本ということで。あと山田・小島両運転手の証言書、(傍聴席を見て)これもどなたか持ってるのかな?(やはり支援者が安井さんに原本を手渡す。傍聴笑い)はい、ではこちらも原本ということで。では今後の裁判についてはどのように進めましょうか? 今回一通り言い分を出して頂いたし証拠もかなり網羅的に出してもらったから、今迄安井さんがここで意見を述べてきたことと今日これから意見を述べることで言い分は尽くしたということで裁判所が判断することを希望するのであれば、裁判所はそれで判断を出してもいいし、さらに希望があるというのであれば、それはそれでもいいんですが、どのように考えますか?
◆安井=若干被告に反論があるんですが、それをさせて頂いて、あとは裁判所の指示に従いたいと思います。
◆裁判長=今日は代理人も付いて頂いたので代理人に伺ってもいいんですが、体調もなかなか大変な時期だと伺ったので、裁判所もできるだけ安井さんの負担を軽くする形で出す物を出して頂いて然るべく判断するという形が一番いいのかなと思っているんですが、今日意見を述べて頂けるというからそれはそれでお伺いしようとは思ってますがね。さっき言われたように被告側に反論があれば書面にまとめて出してもらえば参考としては見てもいいんだけども、そういうことで裁判自体は今日で終わりにして、後は裁判所の判断を求めるというのであれば、そういうことでもいいかなと思ってはいるんですけども、どうしましょう?
◆大野=(安井さんに)証言したいんでしょ?
◆安井=証言したいんですが、あの本人尋問ですね。させて頂きたいんですけども。
◆裁判長=本人尋問ということだとさすがに今やってもらうという訳には行かないんで、手術の後でももう一回開くということになってしまうんですがね。
◆安井=(手術後)声が出るかどうか分りませんが、出ない声を出してでもやりたいと思っています。
◆裁判長=じゃあ、そういうことであれば今日は5分程度の意見陳述に留めて頂いて、次回本人尋問の期日を入れておきましょうか。予定とすると、本人尋問で裁判所の方でポイントと考えている部分を順次述べて頂くということにして、ま代理人が主尋問されるということでいいですけどね。時間的にも、ま体調の関係もあるし、できるだけコンパクトに短く述べて頂くのがいいと思いすがね。そういう前提で次回本人尋問を行なうということにして、それで裁判所として必要な証拠は全部揃ったということで、基本的には次回終結を考えるという手順で進めたいと思いますので。そういうことでいいですか?
◆安井=はい。
◆裁判長=被告側もそれでよろしいですよね?
◆黒河内=はい。
◆裁判長=じゃ今日は5分程度意見陳述されるということであればよろしいですよ。(原告が立つと)あ、座ったままでどうぞ。
◆安井=裁判長。私は癌宣告、告知をされまして、現在精神錯乱状態にありまして、被告に対して言いたいことは山ほどあるんですが、脱線してはいけないと思って原稿にしました。(以下約1分間朗読)私は一番恐れていた癌に冒されました。私がこの裁判で訴えたいことは被告の権限逸脱や濫用によって被った健康被害や精神的苦痛等です。裁判長にはぜひ被告の違法性と責任を認めてほしいと思います。私は明後日手術を受けることになりました。もしかしたら、これが私の肉声による最後の弁論になるかもしれません。裁判長には最後まで十分ご審理下さるよう、心からお願い申し上げます。以上、有難うございました。
◆裁判長=はい、無事次回尋問ができるような状態に回復されればいいと私は思いますけれど、今日こういう形で意見陳述したということで文書に付けておきましょうか。(次回の本人尋問は)一応裁判所とすると、最大限1時間以内ぐらいで進めた方が安井さんも楽だろうなと思うんで、主尋問30分、反対尋問30分程度の中で、むしろもっと短くコンパクトにやって頂ければと思いますけど、それでよろしいですかな?
◆大野=はい。
[次回期日を7/11(水)10:30〜11:30、第626号法廷と決めて閉廷]